ご夫婦が20代に取得された建売住宅。30年住み慣れたお宅の建替え計画です。
周辺はレンガ調タイル外装の家々が多くみられ、綺麗に手入れされた庭先で咲き誇る花々が、当時の流行とこれまでの暮らしの歴史を感じさせていました。ご夫婦のご要望は老後住みやすい家。新しい家は、バリアフリーで基本1階で生活が完結しつつ2階に趣味のための和室とそれぞれの書斎を設えホームエレベーターが備え付けられています。
以前は、建売としては比較的広い60坪の敷地に22坪の平屋が建っていました。 これまでの生活は、日中でも電気をつけなければならず、比較的広い庭と室内の繋がりは絶たれていました。また道路の付き方から、周辺より敷地が下がり、周辺建物の影となる造りでした。
街の歴史に溶け込む透かし積みレンガのヒンプンで緩衝空間を作り、北側斜線制限を天空率緩和規定でクリアし街並みに対してもデザインを整え、リビングを東へ振るシンプルな平面操作で、これまでの室内では得られなかった自然光、山々の景色、青空や月、季節の花を愛でる小庭を室内にとりこみ、沖縄本来の自然の一部である、自然と共に暮らす生活が実現しています。
都市の中の自然とは、空であり、光であり、風であり、雨。 採風に配慮したジャロジー窓、採光のためのトップライト、小庭に面した大きな開口、室内でも自然の移ろいを感じる贅沢な空間つくりに努め、敷地の欠点がそこにしかない魅力へと昇華することを目指しました。
建設ラッシュの現在の沖縄。恵まれた景勝の土地も貴少となり、多くの県民が住む都市部でも“豊かな街並み”の答えも出ないまま、見慣れた景色が壊されどんどん風景が変わっています。
「最大の敵は、文明と以前知らなかった欲望」シルクロードの命名者として有名なドイツの地理学者リヒト・フォーヘン氏が、美しい自然を前に述べた言葉です。人の住まいの本質とは、自然の一部としての生活であると考えます。人の心の拠り所となるように歴史を引き継ぎ、自然を享受できるように維持し回復してゆく建築を目指してゆきたいと思っています。